
「飛田新地」って知っていますか?
端的に言えば風俗街なのですが、そこにあるどの店も「風俗」としては営業していません。あくまで表向きは「料亭」として営業しています。
以前、そんな飛田新地の「料亭」で、長年「親方」をやっていた杉坂圭介さんという人が書いた本を買いました。ふらっと入った本屋でジャケ買いしたんですが、読んでみたらすごくおもしろかったので紹介します。
飛田新地ってどんなところ?
そもそもよく知らない人もいるでしょう。そこでざっくり紹介すると、こんな場所です。
飛田遊廓(とびたゆうかく)は、日本大阪府大阪市西成区の山王3丁目一帯に存在した遊廓。大正時代に築かれた日本最大級の遊廓といわれていた。ちょんの間が存在し、通称飛田新地(とびたしんち)と呼ばれる。
Wikipediaより
上記のとおり、そもそもは大正時代に生まれた「飛田遊廓」が、そのはじまりです。そこから今に至るまで、消えることなく続いています。「花街」とも言われます。
本番行為が行える街である。ソープランドとは異なり、本番行為のみを提供している。1958年の売春防止法施行以後は料亭街『飛田新地料理組合』となっているが、現在も転向以前の雰囲気を残している。大部分の「料亭」は看板は料亭であるが、営業内容は1958年以前と変わらない。
Wikperiaより
最盛期だった昭和初期には、なんと200件以上の店があったらしく、今でも150件以上は残っているらしい。なかなかの数ですね。
ちなみに、具体的な場所はこのへんです。大阪メトロの動物園前駅か阿倍野駅が最寄りですね。
飛田新地の3大禁止ルール
そんな飛田新地では、「女性がはたらきやすい環境づくり」にかなり力を入れています。そのため、大きく3つの禁止ルールがあります。
写真や動画の撮影
1つめは、原則として「撮影禁止」です。
特殊な場所柄もあり、飛田新地エリア全体がそうなっています。一般人による撮影はもちろんのこと、大手メディアの取材目的であっても、大っぴらには受け入れていません。
一般的な風俗店もそうだと思いますが、いろんな事情を抱えた女性がいて、そこで仕事していること自体バレたくない人も多々いますからね。
とはいえ、公道での撮影を禁止する法律はないので、あくまで「不文律」として守られています。あまりにマナーが悪いと、警察に通報されることもあるとか——。
しかし令和になった最近は、やや曖昧になってきているかもしれません。
たとえばアイキャッチの写真(写真ACの素材にあったやつ)もそうだし、上のYoutubeみたいな動画も少なからずありますし。
また女性の写真についても、女性側が許可すれば「SNSにアップしてもOK」という場合があるという話も(あくまで噂ですが)聞きます。
ほかにも、地上波で2018年に放送された「かたせ梨乃が進駐軍の前で踊り狂った時代…とマツコ」という番組で、なんと料亭の内側までカメラが潜入した映像が流れていたみたいです。
僕は番組を見ていないのでなんとも言えませんが、そもそもテレビカメラが入れたこと自体、ちょっと驚きですね。


値下げ交渉
2つめは「値下げ交渉」です。
全店舗の利用料は、飛田新地の料亭を取りまとめる「飛田新地料理組合」が決めたものに統一されています。そのため、どこかの店が勝手に値下げ交渉に応じると、あとで混乱やトラブルを引き起こしかねないので禁止となっています。
もし値下げ交渉をしようとしても注意されるだけで、まず値下げには応じてくれません。
女性の観光
3つめは「女性が飛田新地に観光で訪れること」です。
飛田新地は男性客だけがターゲットなので、どの店も女性の入店は禁止です。仮に「お金払うから」とお願いしても断られます。
そのため、観光だろうがなんだろうが、女性が飛田新地の通りを表立って歩くのは、店からすれば邪魔な「冷やかし」になります。場合によっては、客引きのオバチャンに怒られることもあるそうです。
よって、営業時間中に女性だけで訪れるのは推奨されません。



営業時間外なら、たぶん大丈夫だと思うけれど。
以上、飛田新地に行く際は、この3つのルールを守らないと、最悪は出禁になることもあるとか、ないとか……。
かく言う僕自身は、飛田新地の料亭に行ったことがないため、実際のところはよくわかりません。経験者の友人からくわしく話を聞いたり、体験談を書いたブログを読んだことはありますが。
とはいえ、時代も世の中も大きく変わっているので、撮影禁止ルールなんかはとくにそうですが、飛田新地もそれに合わせて少しずつ変わってきている部分もあるのかもしれません。
飛田新地ではたらく女性たち


さて。
そんな飛田新地を内側からずっと見てきた著者が書いた本「飛田で生きる」では、遊郭のベテラン経営者ならではという目線で、かなり赤裸々に内情が書かれています。
本来なら、なかなか表に出ないであろう話もいろいろと書いてあって、とても興味深いです。
たとえば「そこにいる女性たちが、なぜそこで仕事をすることになったのか?」と言う話。
僕が勝手に想像していたのは「きっと残酷で、どうしようもない事情の人が多いんだろうなー」ということでした……が、その実態はだいぶ違いました。
女性たちの8割以上は「自業自得の浪費(ブランド品やホスト通いなど)の末に堕ちてきた」ということのようです。たぶん一般的な風俗とあまり変わらないのでしょうね。



僕は風俗事情にまったく詳しくないのですが(苦笑)
もちろん、ごく一部には「親の借金返済や学費のため」といった同情に値するような理由の人もいるにはいるようですが、割合としてはかなり少ないようです。個人的に、そこは意外でした。
ちなみにこの女性は、とくに「金銭的に~」とか「親が~」とか複雑な事情があるわけではなく、高校のときに社会の先生がしていた雑談から興味本位でこの世界に入ったみたいです。こういう子はさすがに珍しい気がしますね(笑)
飛田新地の料亭が摘発されない理由(ワケ)


ほかにも印象的だったのは、1990年に行われた「国際花と緑の博覧会」にまつわるエピソード。
その当時、大阪市鶴見区(現・花博記念公園鶴見緑地)で行われたこのイベント開催前、大阪府警は「外国人に見られたら恥ずかしい」という理由で、ほぼ強制的に特殊浴場(いわゆるソープ)の営業を全面的に禁止しました。
けれども飛田新地だけは、なぜかその対象外だったそうです。
その理由を、著者の杉坂さんが先輩の村田さん(「飛田で料亭やらへんか?」と誘ってきた、たぶん末端ヤクザの人)に尋ねたシーンがあるのですが、そのやり取りがちょっと笑えました。
杉坂 では一応、飛田は合法なんですか?
村田 そうや。基本的には、”料亭”でお客と女の子がお茶とお菓子を飲食していたら、偶然にもたちまち”恋愛関係”に陥ってしまっただけなんやから
杉坂 偶然にも、たちまちですか?
杉坂圭介「飛田で生きる」, 徳間文庫カレッジ, 2014年10月, p29村田 男と女なんて、そんなもんやろ
要するに「飛田新地の店はあくまで【料亭】であって、客と店員がたまたま恋愛関係になっても口出しはできない」ということ、らしいですね。
さすがにそれは白々しいですし、無理がありすぎるのでは……と客観的には思うのですが(苦笑)
しかしながら、現実として(非合法なのに)摘発されていないのは、そういう「建前」がまかり通っているからのようです。行政や警察も周知の事実として。
それは、杉坂さんが料亭を新規出店するときに行われた警察とのやり取りのシーンからもよくわかりました。
警察「なんで、飛田で料亭をやりたいと思ったんや?」
杉坂「知り合いがやっていて、自分もやってみようと思って」
警察「初めてか?」
杉坂「はい」
その後も、お互いが仕事の中身にはけっして触れない抽象的な会話が続きました。最後に、この署員はこう言って話を締めました。
警察「部屋の大きさとか、照明の位置、正式にわかったら、申請書を持ってきなさい」
杉坂「ありがとうございます」
警察「まぁ、わかってると思うけど、法律は守れよ」
杉坂「……はい」
杉坂圭介「飛田で生きる」, 徳間文庫カレッジ, 2014年10月, p54-55
……やっぱり白々しすぎる(苦笑)
まぁ実際はその「建前」以外にも、
飛田新地という街がある種の治安維持機能を持っているとか、飛田新地料理組合が地域に貢献するような活動をいろいろやってうまく立ち回っているとか、そもそも売春を証明するのが難しいとか、
いろいろ理由はあるみたいですが……。
いずれにせよ「令和の時代に不思議な状況がまかり通っているもんだなぁ」と、個人的には思います。いろいろ大人の事情はあるのでしょうけれど。
飛田新地が終わる日
先にも書きましたが、僕は飛田新地の「料亭」を体験したことはないし、たぶん今後もないでしょう。そもそも風俗に行ったことがないし、アクティビティとしてはあまり興味もないので。
ただ、ひとつの文化としてはシンプルに興味深いと思っています。いろんな意味で。だから一部とはいえ、この本で飛田新地の内側をのぞき見れたのはよかったです。
人間の欲望がうずまく街だからこそ「人間の本質」がよく見えるので、それがすごくおもしろいですね。
また大阪には「飛田新地」の他にも「松島新地」「信田山新地」「今里新地」「滝井新地」という花街(合わせて「5大新地」と言われたり)が生き残っていて、それらすべてが同じような「建前」で存続しているのも興味深いなーと思います。
とはいえ、どこも法的にはグレー……というか黒だけど黙認されてる状態ではあるので、いつか一掃される日はくるのかもしれませんね。
実際、おとなりの兵庫県尼崎にあった「かんなみ新地」は、2021年11月に突然すべての店が一斉に廃業しましたし。


ただ「遊郭」というのはおもしろい文化だと思っているので、可能なかぎり続けばいいなぁとは思います。とはいえ時代も時代なので、いつどうなってもおかしくはありませんが。
まとめ
なんにせよ、本には飛田新地にまつわる興味深いエピソードがほかにも盛りだくさんなので、よければぜひ読んでみてください。
リアルに親方を10年やってきた人の話を読めるのはとても貴重だし、シンプルにおもしろいと思います。まぁいろいろ考えさせられることもありますが。
文量としてはおよそ260ページくらいですが、文庫本ですし、たぶん2時間もかからずサラッと読めますよ
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