昨日、スタジオジブリ最新作「君たちはどう生きるか」を観てきました。
宮﨑駿さんが監督・脚本・原作までやったのは、2013年公開の「風立ちぬ」以来。「長編映画からは引退したはずなのになぁ……」とかひそかに思いつつ、なんだかんだで楽しみにしていたのですけれども(笑)
というわけで記憶が鮮明なうちに、個人的な備忘録も兼ねてざっくり感想を書いていこうと思います。
ネタバレはしないように……。
結局、宮﨑駿は何を伝えたかったのか?
映画を観たあと、僕が率直に感じたのは「いろいろ説明が足りていないし、解釈の余地もありすぎてムズかしい」ということでした。
端的に言って、一度観ただけでは「なんかよくわからない」という人が多いだろうなと思います。実際SNS上ではそういった評判をたくさん目にしましたし、正直なところ僕自身も、そう感じた部分が少なからずあります。
それくらい「わかりやすさ」とは対極にあったように思うし、それゆえに「宮崎駿らしい」ような気もする……なんにせよ「人を選ぶ作品だろうな」とは思いました。
ただわかりにくいながらも個人的には楽しめたし、いろいろ考えさせられました。また、宮﨑監督から(勝手に)メッセージをひとつ受け取ったと思っています。
それは何かと言うと
「いま、ここ」にフォーカスし、自分自身の足元にあるものを大切にしなさい
ということです。
人間の根源にある愚かさ
人間の根源的な部分には、たとえば
- 他人よりも優位な立場でいたい
- 他人よりも多くのものを所有していたい
といった「動物の本能的な愚かさがある」と、僕は考えています。
一方で人間には、ほかの動物よりも優れた「理性」があり、そのおかげで「本能」を自分自身でコントロールすることもできます。
しかし同時に、人間はとても弱い生き物です。それゆえ本能にあらがえず、理性的なふるまいを見失ってしまい、ときに争いを引き起こすこともあります。
たとえばプーチンのように、あまりに独善的な正義を掲げ、理不尽な戦争を一方的にはじめたうえに、それを平然と正当化する……とかね。さすがにこれは極端な例ですが。
なぜ人間は争うのか?
それもこれも、自分の「内」ではなく「外」にあるものばかりを見て、他人を妬んだり羨んだりしているがゆえではないか。僕はそんなふうに思うのです。
それはつまり「自分の『いま、ここ』にフォーカスできていない」ということでもあります。
事実、人間は歴史上「自分の”外にある何か”を奪うため」に、身勝手な争いをたびたび引き起こしてきました。その「”外から奪った何か”が手に入れば満たされる」という「幻想」を信じて……。
戦争を経験した人ゆえに
これは僕の勝手な想像ですが、宮﨑監督もそういった感じのことを考えたりしていたのかな、と。監督は幼少期に戦争を経験されているので、むしろ僕なんかよりもよほどリアリティを持って……。
そんななか彼のアタマにあったのが「(愚かな争いをなくし、平和な世界を実現するために)君たちはどう生きるか」という問いだった。
そして、そのひとつの答えとして「自分の内にある『いま、ここ』にフォーカスし、己の足元にあるものを大切にする」という生き方を提案してくれたのではないか――と。この映画を通して、ね。
もちろん宮﨑監督にそんな意図は一切なかった可能性も大いにありますが、少なくとも僕は、そう解釈しました。
ウクライナでの戦争や世界各地の紛争、貧困や飢餓、人種差別や環境問題、最近では猛烈に進化するAIによって「人間の存在意義」すら問われているカオスと混乱がうずまく今の時代。
あらためて「君たちはどう生きるか」という問いの重要性を感じたからこそ、事実上の引退撤回(「引退しながらやっている」というのが本人の談)をしてまで、宮﨑監督はこうして作品をつくったのかもしれません。
すべて僕の勝手な想像と解釈です。あしからず。
まとめ
今作は事前の情報公開がほぼなく、プロモーション活動も一切されないまま公開されました。プロデューサーの鈴木敏夫さんは、その件についてこんなふうにコメントしています。
いろいろ考えているうちに一切宣伝がなかったら、皆さんどう思うんだろうと考えてみた。僕の考えですけど、これだけ情報があふれている時代、もしかしたら情報がないことがエンタテインメントになる。そんなふうに考えました。うまくいくかどうかわかりません。わからないけど、それを信じてやる、ということです
参考:映画ナタリー 編集部 2023.6.28「一切宣伝なしの異例「君たちはどう生きるか」宮崎駿の現在の心境は?鈴木敏夫が明かす」映画ナタリー
これはつまり、昨年から今年にかけて大ヒットした「THE FIRST SLAM DUNK」と同じ手法をとったわけですが、どうやら巷ではあまり評判がよくなかったようで……。
「スラムダンクは、中身が”スラムダンク”だとわかっているからあれでも成立したけれど、ジブリは中身がわからないのだから、事前にもっと情報を出すべきだった」という声が多いです。そのせいか僕が映画館に行ったときも、半分くらいは空席でした。
たしかに、中身がまったくわからない福袋は、今どき流行らないのかもしれません。しかもフタを開けてみれば、想像以上に難解で、大衆ウケとは真逆のわかりにくい内容だった……となれば、こういったネガティブ評価が多いのも仕方ない気はします。
こういった現象を見ると、今の時代は「シンプルなわかりやすさ」が(とりわけエンタメにおいては)求められてるのだなぁと、あらためて感じますね。
あ、オファーから4年かけて完成させたらしい米津玄師の主題歌は、控えめに言って神曲でした
おまけ
同名小説の著者、吉野源三郎氏のお孫さんである吉野太一郎さんが「好書好日」というネットメディアの副編集長をされているそうで、この映画についての所感を記事にしていました。
源三郎氏の身内である吉野さんにしか語れないエピソードもあってとてもおもしろいので、興味があれば読んでみてください。
この記事によると、宮崎監督が本作の内容について「私自身、訳が分からないところがありました」と言っていたそうです。監督ご本人がそう言っていたのなら、僕がそう感じたのもきっと自然なことですね(笑)
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